自転車を自分で整備するのであれば、トルクレンチは必要です。
自転車を自分で整備する場合、当然ではあるのですが・・
ミスや整備不良、それによるトラブルは、すべて自己責任になってしまいます。
そして「ボルトを締める」のは、自転車整備においてなんどもなんども行うことなのですが・・
この締め付けの強さがいいかげんだと、走行中にパーツ同士がズレてしまう、といったトラブルにつながる可能性があります。
上のように「5Nm」と書いてある部分の場合は、5Nm(ニュートン・メートル)という強さで締めなければならないのですが・・
「手で、5Nmでボルトを締めてください」と言われも、普通は、とても無理です。
なのでトルクレンチは、必須となってくるのです・・
でも・・トルクレンチって、本当に必要なの??
実は無くてもなんとかなる、いらない・・とか、無いの?
そして、必要だとして・・どれを選べばいいの?注意点とか、無いの?
この記事ではそんなトルクレンチにかかわることを、徹底解説していきます。
目次
「トルクレンチ」とは
そもそも、トルクレンチとはどんな工具なのでしょうか。
トルクレンチとは、「締め付ける強さ」をあらかじめ設定してから締め付けることで、
誰でも簡単に、適切な強さで締めることができる工具です。
下のほうでも詳しく紹介しますが・・
私自身が愛用している、定番品は上の記事で書いたものですね。
トルクとは、ボルトなどの軸をねじるモーメントの強さであり、
強さは一般的に、「N・m(ニュートンメートル)」という単位で表されます。
たとえばステムのボルトであれば5N・m、
Vブレーキの本体をフレーム取り付けるときは10N・m、
ボトムブラケットをフレームに締め込むときは50N・m・・・
といったように(数字はあくまで一例です)、
パーツごとにあらかじめ締めるべきトルクが指定されていたり、もしくはおおまかな目安があったりします。
トルクレンチを使えば、誰でもこの決まった締め付けトルクでボルトを締め付けることができますので、
上記したような締め付けのゆるすぎ・強すぎによるトラブルが起きる可能性を、かなり低くすることができるのです。
トルクレンチを使わないと・・こうなった。。
自転車にトルクレンチは、絶対に必要!
いやいや、トルクレンチは不要だよ。
どちらも、よく言われることのようです。
私自身、以前は、いらないのでは?・・と思っていました。
しかし現在では、絶対に必要だと思っていて、
整備のときには必ず、トルクレンチを使っています。
ロードバイクなどの自転車を趣味にすると、ほぼ必ず、
「ボルトを締める」必要がでてきます。
ハンドルの角度を変えるにも、サドルをちょっと上下させるにも、何をするにも必要です。
ので、ロードバイクに乗っていて、一度もボルトを締めたことがない!
・・ということは、少ないと思います。
そしてボルトを締めるとき、トルクレンチを持っていない場合は、
「手で締める」一択になってきます。
普通の六角レンチを手で持って、それで普通にボルトを回すわけですね。
私自身、トルクレンチを持っていないころは普通に手でボルトを回していました。
一応、パーツには適切な「締める強さ」があることは知っていましたので、
強すぎず弱すぎずになるよう、加減していたつもりだったのですが・・・
ある日いきなり、ハンドルがズレました。
ロードバイクのドロップハンドルで、ハンドルの握る部分がいきなり「下に落ちる」ような感じで、ズレたわけですね。
そうなるともちろん、体重を支えているものが突然なくなりますので、前に放り出される形になります。
幸いそのときはうまくバランスをとったので、実際に放り出されることは無かったのですが・・・
まあ、めちゃくちゃ、怖い思いはしました(笑)
締める強さが弱かったのが原因か?と考えて、あわててトルクレンチを調達して、
まずは、トルクの確認をしていたのですが・・・
「5」N・mで締めるべきところを、「2」N・mくらいで締めていました・・笑
そりゃ、ハンドルもズレますよね・・苦笑
一応、適当に締めていたわけではなくて、ちゃんと強さを加減していたつもりでした。
レンチの長さを確認して、何kgの重さを掛けると何N・mになるか?とか計算して、
できるだけその重さが掛かるよう、体重計で力加減を確認してからその力で締めたり・・
しかし、全然だめだったわけですね。笑
実際、手で正しいトルクを出そうとするのは「手ルクレンチ」とか言われたりして、
航空機のエンジンを扱うエンジニアとか、つまりプロ中のプロとかだと、ちゃんと出来ることもあるようです。
手で5.0 N・mを出す試験!なんていうのも、場合によってはあるみたいですね。
しかし・・手で正しいトルクを出すのは、どうやら素人には、難しすぎて無理なことのようなのです。。
自転車整備のとき、ボルトの締め付けがちゃんとできていないと、そんな感じでパーツが「ズレる」ことになります。
強く締めすぎでダメージを与えて、走行中に破断・・とかも、無いとはいえないです。
そうなるともちろん、最悪は事故・・とかも、あり得ますよね。。
そしてここはトルクレンチさえあれば、解決するところです。
トルクレンチを使うようにしてからは、へんなトルクで締めることはなくなりましたし・・
前述したような、パーツが「ズレる」問題も一切、起きることはなくなりました。
と、こんなことがあったので・・
トルクレンチは自転車整備に、必須!
と、私としては主張したいです。
どのトルクレンチを選べばいいか トルクレンチのタイプ編
トルクレンチとひと言で言っても、いくつかのタイプがありますので、
自分で自分の自転車を整備する場合には、どのタイプのトルクレンチが良いのか、ここで考察したいと思います。
まず、トルクレンチには、大きく分けてビームタイプ、スプリングタイプの2種類があります。
ビームタイプのトルクレンチは、締め付ける強さによる金属部分の変形の大きさを見て、トルクの大きさを測るタイプです。
このタイプのメリットは、トルクを測る部分が金属棒なので歪みにくく、長期的な使用でも測定が狂いにくい、というものです。
デメリットとしては、規定トルクに達したら自動で締め付けをやめてくれる、といった機能が無いため、目盛りなどの数字を見ながら慎重に締め付けを行っていく必要があります。
そのため、複数のボルトを連続して締め付けていく、といった作業の素早さには劣ります。
スプリングタイプのトルクレンチは、本体に入ったスプリングの縮みの大きさを見て、トルクの大きさを測るタイプです。
このタイプのメリットは、指定しておいたトルクに達すると自動的に締め付けをやめてくれる、という機能があるため、
自分で微妙な調整をしながら締めていく、という必要がないです。
そのためたくさんのボルトを次から次に締めていくことができ、連続した作業が速くなります。
デメリットとしては、計測に使う部分がスプリングなので、金属で計測するビームタイプと比較し長期的な使用による測定値の狂いが起こりやすいです。
そのため比較的、頻繁に校正に出す必要がでてくるでしょう。
上記のような特徴があるため、私の考えとしては、
ビームタイプは、さほど多くのボルト本数を締めず、じっくりと作業ができて、校正もさほど頻繁には行わない個人の自転車整備向け、
スプリングタイプは、多くのボルト本数を連続してすばやく締め、工具の構成は高頻度でしっかりと行う、ショップなどのメカニック向け、
という分け方ができるのではないか、と考えます。
実際、私はビームタイプのトルクレンチを使用しており、上記のような使い勝手のよさを感じていますし、
逆に、自転車ショップの作業などを見る機会があったときに注目してみると、トルクレンチの多くはスプリングタイプでした。
そのため、さほどたくさんのボルトを締めることのない個人での整備においてはビームタイプのほうが優れると考えます。
どのトルクレンチを選べばいいか 具体的製品編
次に、トルクレンチとして具体的にどの製品を選べばよいかなのですが・・
まず、自転車で締め付けるべき部分は、凹タイプの六角ボルトが圧倒的に多くはあります。
しかしながら、トルクを測りながら締めるべき部位は、六角ボルト以外にも有り、
たとえばボトムブラケットのフレームへの締め込みや、スプロケットのホイールへの取り付けといった特殊な部分も、
トルクレンチで締め付けることができたほうがいいです。
そのため六角ボルトだけではなく、それら特殊部分の締め付けにも対応してくれる製品が望ましいです。
また、トルクの対応幅が、自転車整備に使われるトルクをカバーしているものがいいです。
自転車整備に使われるトルクは、もっとも弱いものが「5.0」 N・mくらい、もっとも強いものが「50.0」 N・mくらいなので、
5.0-50.0 N・m程度の幅をカバーしてくれるものが便利でしょう。
以上を満たす具体的な製品として、
「SK11」というブランドの、「SDT3-060」という製品は良いのではないか、と思います。
こんな感じのものですね。
これを使って、
こんなふうに、ボルトを締めていくわけです。
規定トルクに達すると、ピピピ・・・という音で知らせてくれます。
価格もさほど高くはありませんし、精度が低いということも無いと思います。
ちなみに私が購入したときは、校正証明書もちゃんとついてきました。
さまざまな場所の締め付けに対応しており、
通常の凹タイプの六角ボルトはもちろんのこと、
対応するアタッチメントさえ用意すれば、凸タイプの六角ボルト、スプロケット、ボトムブラケット、ペダル・・などなど、
基本的に自転車の、締め付けるべき部分において、対応しない場所は無いのではないか、と思います。
対応トルクも3.0-60.0 N・mと、自転車整備で使うトルク幅を、過不足なく満たしています。
私は、ロードバイクをフレームのみの状態から、自分ですべてのパーツを組み付けて完成させたりするのですが、
そのような時であっても、このレンチ一本で、困るようなことは特にありませんでした。
もしトルクレンチを持っていなくて、どれを買えばいいかわからない!というのであれば、
大きな間違いはない一本なのでは?・・と思います。
トルクレンチの「校正」テクニック
トルクレンチは、長期間使っていくと、少しずつ精度が狂ってしまうものです。
トルク測定には金属棒やスプリングが使われますが、物質である以上、何度も負荷をかけると歪んでしまい、
表示されるトルクの値が、狂ってきてしまうことがあります。
ビームタイプのレンチはスプリングタイプに比べ狂いにくいですが、それでも少しずつ狂ってしまう可能性はあります。
そのため基本的には、定期的にメーカーなどに校正に出すべきだと思いますし、自転車ショップなどではそうされていると思います。
しかし、メーカー校正はなかなかに高価ですし、時間もかかってしまいます。
またレンチによっては、そもそも校正サービスが提供されていないことも多いです。。
そのため私としては、自己流ではありますが、
以下のような方法で校正を行なっていますので、紹介したいと思います。
この方法には、安物でかまいませんので、2本目のトルクレンチが必要です。
たとえば私は、上の「PWT イージートルクレンチキット」を使っています。
(私の購入時は1000円強で売っていました)
そしてまず、以下のようなものを作成します。
「六角スペーサー」の両側から、「六角ネジ」を2本、締め込んだだけのものです。
材料はホームセンターで容易に手に入ると思います。
サイズとしては、M6くらいが妥当だと思います。
あとはこれの両端にトルクレンチを差し込み、それぞれでトルクを測定しながら、同時に締め込んでいくだけです。
片方が一定のトルクに達したときに、同時にもう片方のトルクも同じトルクになっていれば、
そのふたつのトルクレンチは同じようにトルクを示す、ということになります。
たとえば片方のレンチが5.0 N・mを示したとき、もう片方のレンチも5.0 N・mを示していれば、
そのふたつのトルクレンチは同じような測定精度を持つ、と考えてよいでしょう。
注意点としては、少なくとも片方のレンチは、目視せずとも測定トルクが分かるような製品である必要があります。
2本のレンチの測定値を、同時に目視することはできないからです。
この方法はあくまで自転車整備の素人が自己責任で行っていることです。
正しい方法で校正されたものを使いたいのであれば、やはりメーカーなどに校正に出されることをおすすめしますし、
もし参考にされる場合は、あくまで自己責任にてお願いいたします。
まとめ
自転車整備において、トルクレンチは、絶対に買っておいたほうがいいアイテムのひとつです。
トルクレンチを使っていなかったせいで、事故を起こしてしまった・・事故にあってしまった・・なんてことになったら、
後悔してもしきれないでしょう。
そしてトルクレンチは、個人整備では基本的にビームタイプ、特にSK11 SDT3-060を選んでおけば、大きな間違いは無いのではないでしょうか。
トルクレンチを使うことで、自転車整備における無駄なトラブルを減らすことができます。
ぜひ、参考にしてみてください。